大谷翔平の試合を観るためロサンゼルスへ①:アメリカはすでに資本主義の“終末局面”か/ Traveling to Los Angeles to Watch Shohei Ohtani①: Is America Already in Capitalism’s Terminal Phase?
Just before Japan’s Golden Week in 2026, I took a trip to California. I spent six days in San Diego and four days in Los Angeles, making it a journey of a little over ten days in total. The main purpose of the trip was to watch Shohei Ohtani play at Dodger Stadium.
As a baseball fan, seeing Ohtani in action at the Dodgers’ home stadium had been high on my bucket list, and this trip finally gave me the chance to make it happen.
(English text continues to the latter half of the page)
・2026年ゴールデンウィークの直前にカリフォルニア州に行ってきました。サンディエゴに6日、ロサンゼルスに4日間、計10日余りの旅。その主たる目的はドジャーズスタジアムで大谷翔平の試合を観ること。
・もちろん楽しい旅だったし、試合では大谷選手がホームランを始め全打席でヒットを打ったし、まずは楽しい思い出から話を始めるべきかもしれない。しかしあらためてこの約7年ぶりのアメリカ滞在を振り返ってみると、強烈に心に残った印象は『アメリカはもはや資本主義の終末局面にあるのではないか』という直感だった。
・いきなり深刻な話題を最初に持ってくることには抵抗があるけど、旅から戻ってどうにも頭から離れないことなので記しておきます。
日本人には恐ろしい現地物価と、貧富の拡大
今回の旅は10日余り、まずSan Diegoに5泊、それからLos Angelesに4泊、帰国2日前の日曜日にドジャースタジアムにシカゴ・カブス戦を観に行くことになった。あらかじめ覚悟していたとは言え、現地の物価はどうしても円換算してしまう日本人にとって恐ろしいものだった。レンタカーや宿泊費はピークシーズンをうまく外したおかげで比較的ましだったものの、とにかく外食やエンターテイメント施設が高い!
たとえばこのブレックファストメニュー、サンディエゴの宿の近くにあったカフェの朝食。決して敷居の高い店でなく、近くの海岸でサーフィンした若者が気軽に朝食に立ち寄るようなところだ。この2人分の朝食がチップ込みで9,300円($=157円換算)!ちなみに味はとても美味しかった。

これがランチになるとさらに高くなり、下の写真はサンディエゴのリトルイタリーで入ったカジュアルなレストランのパスタランチ。もちろんランチメニューだけど、これはコーヒーを含めて2人で28,000円。ただでさえ価格帯が高いのに、さらに2割のチップを払うのはあまりに財布に痛い。

単なる物価高でなく、資本主義の“歪み”が現れていないか
外食を離れてエンタテイメント施設を見てよう。下の写真はSan Diego Sea World(千葉の鴨川シーワールドの技術協力パートナー)で見つけた園内のアクティビティ一覧。もちろん園内に入るのにすでに入園料で一人$130(約2万円)、駐車代で$40(約6,300円)を支払っている。さらに楽しいアクティビティに参加しようと思ったら、ベルーガとの水中ランデブーが$219(約34,300円)、ペンギンへの接近が$199(約31,200円)、イルカと水中で触れ合いが$159(約25,000円)だの、子供の欲するままに遊ばせていたら日帰りの水族館レジャーがあっという間に10万円以上のコストになってしまう。

日本人から見たら異常なレベルに見えるこうした物価水準は、一つには為替換算のマジックのせいもある。日本円の米ドルに対する購買力平価は直近で105~110円程度、ところが実際の為替レートでは160円前後と5割近くディスカウントされている。これは日本の財政が手詰まりで金利を大きく上げようにも上げられない事情を市場が理解しているためで、日本人にとっては外国で本来の価値よりも5割増しで支払わされている状況なので、何もかもが高く見えるのは当然のことのように見える。
しかしこのサンディエゴ・シーワールドで見られるような贅沢なオプション価格からは、単なる物価高と言うよりも「社会の分断」、「資本主義の歪み」と言うべきものが強く感じられてならない。直近30年で日本の経済、特に個人所得はほぼ停滞したままだった一方で、アメリカ経済はほぼ一貫して拡大を続け代表的な株価指数であるS&P500は12倍になり、所得も雇用も大きく上昇した。アメリカで順調に社会の中で働いていれば日本人にとっては恐ろしく高水準の物価の中でも生活できていけるかもしれない。直近のアメリカの家計所得のメディアン値は$83,760(≒1,340万1,600円)と日本の300万円台後半と比べてはるかに高く、週末に子供を連れてサンディエゴ・シーワールドに遊びに来る余裕のある家族も多いだろう。しかしそこからさらに子供のためにオプションプログラムに数十万円を支払える家族は一握りではないか。アメリカはこの30年で大きく成長したが、その成長の果実はむしろ貧富の差を広げる方向に働いている。もちろん少数の“持てる者”がはるかに多くの資産を手にする形だ。
富の偏在を表すジニ係数(1に近いほど社会の富が少数によって偏在されている)は、直近の日本で0.32、欧州で0.29、アメリカでは0.41~0.42と、もともとアメリカにおける富の格差は先進国の中でもかなり高かった。新型コロナによる混乱を経て、近年では急騰はないものの高原状態からさらに高いところに居所を移している。最近ではスペースXの上場に伴って、イーロン・マスクが史上初の『兆万長者』になったことが報じられた。彼の資産は$1兆(≒160兆円)で一般的な家計所得の500万倍、もはや比較の意味もないくらいの格差だ。貧富の差が大きいアメリカでも前代未聞の大金持ちの誕生だ。こうした国家予算にも匹敵する資産を持つ個人が出る一方で、日々の暮らしにも事欠く層が多く存在していることも事実だ。ロサンゼルスのダウンタウンを歩いていると、飲食店、特にファストフード店で下の写真のような『EBT』という看板をやたらに目にする。実は初めて見た時には、これを「未熟練労働者(Employee before training)」を雇用するところかと思ったのだが、実はこれは『Electronic Benefit Transfer(電子給付金支給システム)』を表し、貧困者向けのフードスタンプを電子カード化したものだった。このEBTが支給されているのは、全米で人口の11~12%、実に8人から9人に一人が福祉による食料品支給の世話になっていることになる。
ロサンゼルスの中でもフェンタニル中毒が溢れているスキッドローの付近も車で訪れてみた。直接周囲を撮影するのは危険だったので、ここではネットの拾い物の写真を下に掲げるが、ここがハリウッドの観光地から歩いて30分くらいのところとはなかなか信じられない。こんなに狭い地域で富める者と切り捨てられた者たちが、共に暮らしているのはまるでディストピアをテーマにした映画を観ているようだ。
Wikipediaより転載
資本主義の終末局面/アメリカの覇権は終末に近づいているのか
第二次世界大戦以降の50年間は米ソに代表される資本主義と共産主義の闘いだった。もちろん1990年以降はソ連を始め大半の社会主義国が破綻し、世界は一気に資本主義へ傾き、その中でもアメリカは世界の覇権国として資本主義経済の拡大を享受し続けた。しかし資本主義の力をほぼ最終局面まで突き詰めたような現在のアメリカの姿は果たして“持続可能”なものと言えるだろうか。このまま資本主義がさらにその傾向を強めて、富の偏在をますます強めていくことをこれ以上世界が許すだろうか、という思いがどうしても拭えない。
もちろん資本主義に幻滅した大衆が再び社会主義に走るなんてことは現代では考えにくい。大衆の不満が沸点に達した時に革命が起こるなんて事態はあまり想像できない。だが現在のアメリカはトランプと言う近代では例を観ないほどの狂人的な大統領が大金持ちを操りながら専制的な政治を敷いている。遅かれ早かれ彼が退いた後を担う政権では、これまでの混乱をいやでも是正する方向に行かざるを得ない。その中にはこれまでアメリカで軽視されてきた、「富の再分配」を促す相続税や、IPO、M&Aによるキャピタルゲイン課税強化などの施策も含まれそうだ。これによって行き過ぎた富の偏在傾向は緩和されるかもしれないが、その一方で、これまで資本主義の全力を挙げたアメリカの成長力には陰りが出る方向に動き出すかもしれない。資本主義を突き詰めて成長を続けてきたアメリカは現在がほぼそのピークに達しているのではないか。
アメリカが世界の覇権国である証左は、米ドルが世界の基軸通貨であることだ。基軸通貨の交代は一朝一夕に起こるものではなく、十年単位の時間をかけてゆっくりと進んでいく。100年前に英ポンドに代わって、米ドルが基軸通貨になった時もそうだった。いきなり世界中の準備通貨が中国元や他の通貨に代わってしまうような事態はあり得ない。しかしアメリカの世界におけるポジションは現在がピークで、これからは徐々にそのポジションを次代の国家、通貨(必ずしも現実の通貨に限らない)に譲っていくプロセスの“終わりの始まり”ではないかという未来図が、自分が今回アメリカに10日あまり滞在して得た最大の印象だった。
